「おくりびと(PCサイト)」
去年の秋頃に観に行こうと思っていて、見逃した作品。今回めでたい事に、アメリカのアカデミー賞外国語映画賞を受賞して、見事再上映となりました。
やったーー!!
入場時間の10分前に映画館のロビーに入ると、今まで見たことのない混みよう。夏休みに子供達でロビーが埋め尽くされているかのように、平日に年配者達でごった替えしております。
上映予定のスクリーンを見ると、私が見る時間の「おくりびと」は売り切れ。ネットでチケットを購入して良かった。
予約販売機からチケット受取の手続きをしていると、「あら!おくりびと入れないわ!」と言いながら肩を落として出ていく人達が多数おりました。
可哀想だなぁ。やはり年配者にはネットで調べるという手は敷居が高いのかもしれない。でも、明日からは上映回数増えるからねー。と、背後から心で言葉を送る。
さて、感想です。
感想っていうか……ネタバレです。
完全あらすじにそって、ネタバレと感想を書くので、見たくない人は見ちゃダメれす!
あ、見たくない人達には面白かったかどうかだけ。
勿論面白かったです!!
■120%ネタバレの感想■
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(ネタバレ開始!)
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納棺師という職業と、映画宣伝の「感動」という言葉から、シリアスで淡々とした進みを想像していましたが、これが中々どうして、コミカルでとっつき易い。
テンポ良く、だれるところがないまま主人公・小林大悟(本木雅弘)の状況と感情の変化が進んでいきます。
登場する人物達も、出てきてちょっと話しだすだけで、どんなキャラクターなのかが分かります。
新聞に入っていた「旅のお手伝い」という文句から旅行会社の募集広告だと思い、面接を受けた大悟。しかしそれは写植ミスで「旅(立ち)のお手伝い」をする納棺の仕事だと程無くして知る。(写植ミスとは言ってるけど、多分、わざとよね)
納棺師はいい旅立ちに立ち会うばかりではない。時には悲惨な状況に立ち会わなければならない。
大悟は悲惨な状況で亡くなった遺体と対面。
銭湯で体を念入りに洗い、遺体を思い出し、食事もとれない。
その時に心配してくれる妻の美香(広末涼子)に縋りつき、皮膚の感触と体の温もりを一生懸命感じようとしているモっくんの演技はエロいけど、秀逸!
この段階では大悟は納棺師の仕事に抵抗と拒否感を持ち、辞める事を考えています。温もりを失った人間に触れる事が恐怖なのだと思います。
辞めようと思っていた矢先、NKエージェンシー(大悟の勤める納棺の会社)の社長・佐々木(山崎努)のアシスタントとしてついていった先で、社長の見事な納棺の儀式を見る。
妻の死を受け入れられない遺族の夫は、美しく死化粧をされた妻の顔を見て、こらえきれず涙を流す。
人の死で金を稼ぐ納棺師に横柄な態度を取っていた夫だったが、最後にはお礼を言ってくる。
ここから大悟の納棺師とは何か……という思いが湧き上がってきます。
東京で楽団に入ってチェロの奏者として生活していた大悟。でも田舎に戻ってきたここには子供の時に使っていた小さなチェロしかありません。
朝早く目覚め、大悟は糸の緩んだチェロを調律し、小さい頃から好きだった曲を奏でます。
田舎に戻ってきて、彼が初めて弾くシーンです。
曲と映像の柔らかさが、大悟の心のわだかまりがとけていく様子を表していると思いました。
大悟の納棺師としてやっていく決意表明みたいなもんですね。
その後の物語にやってくるのは、周囲からの差別です。
友達から避けられ「もっと仕事選べ」と言われます。
納棺先で遺族の喧嘩の中、指を差され「こういう仕事に就きてぇか。こんな落ちぶれた仕事」呼ばわりされます。
妻には冠婚葬祭系の仕事としか言ってなかったけど、仕事の内容がバレ「触らないで!汚らわしい」と拒否されます。そして、妻は出ていきます。
劇中、いいお葬式も沢山出てきます。
みんなにキスをされて見送りされるおじいちゃん。
孫からルーズソックスを履かせてもらうおばあちゃん。
納棺に宗教は関係ありません。若くしてなくなった子供は教会でお葬式をあげます。写真の中の子供は元気に笑っています。
その人に関わった人間が泣いて悲しんだり、笑顔で見送ったり……どういうお見送りになるか違えども、誰かに見送られながらあの世に行くというのが良いのです。
その気持ちが大悟に分かり始めた頃に起こった差別。
とても辛かったです。
辛かったのと、「こんなに拒否反応あるかなぁ。酷過ぎない?」とか思っちゃったんだけど、自分がストーリー作るとしたら、感情を高める為に書いちゃうかもね……とも思いました。
実際、多くはないだろうけど、葬儀に携わる仕事をしている人は、嫌な事を言われる事もあるのでしょうね。
差別の後は、理解です。
百聞は一見にしかず。
差別していた友達のお母さんツヤ子(吉行和子)が亡くなります。その納棺を務める大悟。
大悟の納棺師としての仕事を初めて見た妻の美香。
大切な仕事なのだと、理解します。納得します。決して汚らわしいものなんかじゃないのです。
物語の佳境に入って驚いたのは、友達のお母さんは女手ひとつで銭湯をやっていたのですが、そこの常連の客である平田さん(笹野高史)の役。
彼はなんと、火葬場の職員だったのですよ。
彼は長い付き合いだった、ツヤ子を焼かなければいけないのです。
彼はお棺の蓋を閉める時に、ツヤ子に言います。「ご苦労さん。また会おうの」
火葬のボタンを押す瞬間。何十年と、燃える炎を見続けてきた彼は、何を思いながら押すのでしょうか?
母の最後を見ようとツヤ子の息子が裏に来ます。平田さんなりの仕事への解釈がここで言葉にされます。
(ハッキリとした言葉は忘れましたが、大体こんな感じです)
【死は終わりではない。新たな道への門番を私はしている。だから皆に「また会おう」と言う】
非常に深い言葉です。
小さな町の火葬場です。一体どれだけの人数の知り合いに、平田さんは炎のボタンを押したのでしょうか。葛藤は相当あったと思います。やりたいと思う人はいないでしょう。
そんな中で生まれた「門番」「また会おう」という言葉。
涙が止まりません。
最後は、30年間行方知れずだった大悟の父親の死。
憎しみが勝っていて、遺体と対面をするのも引き取るのも嫌だと思っていた彼が、雑に棺に入れられようとする父親の遺体を守ります。
遺体を取りにきた葬儀屋さんは突然の事に「何するんだ!?」と驚きます。
そこで一緒にいた妻の美香は、ハッキリとした口調で言います。「夫は、納棺師なんです」
そこから感じられる言葉の響きは、夫の仕事への誇りです。
大悟は納棺師として父親の遺体を綺麗に清めていきます。
父親の握った手が堅くなり、指が中々開きません。手を清める為に指を開いてみると、そこには小さい頃に石文として父親にあげた小さな石が握られています。
髭を剃り、生前のように美しく見えるよう綿を入れます。優しい表情となった父の顔を見て、思いだせなかった父親の顔が、ハッキリと蘇ってきます。
大悟はこの人は「お父さん」だと言います。
最後まで父親が握りしめていた、幼かった息子から貰った小さな石。それを、大悟は横にいる妻のお腹に充てます。妻のお腹には新たな命が宿っています。
さてこれは。どういう意味に捉えますか?
私は
『大悟が父親へ込めた石の思いを、そのまま再び生まれてくる子供にあげた。血の繋がり』
『亡くなった父親の思いがつまった石の文を、見ることの出来なかった孫へ伝えた』
『感情や想いの赴くままにそう動いた、無意識の行動』
どれかかなぁ…と思いました。
色んな事を考えさせる映画です。
何度涙を流した事か。
恐らくこの場で一番ハンカチで何度も目を押さえていたのは私でしょうなぁ
いやぁ…どの役者さんもお見事。
オススメ度は星5つ:★★★★★
自分的にも星5つ :★★★★★